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『 私は四歳ごろに目の炎症を治すための手術を受け、光とさよならした。
(中略)
缶詰なら缶の形である程度見当がつくし、レトルトは中身がコロコロと手に触れれば少なくともひき肉物ではないと分かるが、それはほんの一部で、後は「出たとこ隣負」。何に当たっても何かしらの料理になるように周辺の具材と調味料を用意しておき、「きょうはトマトスープが食べたいんです。このサバ缶が、どうか味噌煮じゃなくてトマト煮込みでありますように」と天の神様に念を送ってから開ける。
(中略)
それが、スマホのスキャン機能で食品パッケージを読めるようになったことで一変した。』
「わたしのeyePhone」
三宮 麻由子 (著)
発行: 早川書房
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『わたしのデザインにシンプルなかたちが多いとすれば、それは部品数が少ない方が費用を安くできるとか、壊れにくくなるとか、そういう都合の結果だったりもするわけです。素材を1グラム減らすだけでも、100万個作るなら100万グラム、つまり1トン減ります。一般に車のデザインなどでも、鉄板の内側をできるだけ削って薄くしています。それは主に設計の仕事ですが、そのように工夫された素材をどう美しく見せるかはデザイナーの仕事になります。さじ加減というのは、そういうことですね。
わたしが言う「デザインは妥協だ」とは、そうした様々な制約やクライアントの思惑、メーカーのブランディングなどを考慮しながら、美しいものを作ることを意味しています。』
「かたちには理由がある」
秋田 道夫 (著)
発行:早川書房
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『 五月に鍋とは、なんだか季節外れのような感も否めないけれど、こと山椒鍋に限っては、春を待ち、盛大に花が咲く頃に窓を全開にして食べたい。というか、その頃にしか食べられないのだ。理由はとても簡単で、鍋の主役が山椒の新芽だから。しかも、出たばかりの貴重な山椒の芽を、これでもかというくらいてんこ盛りにして鍋に入れる。
(中略)
これがもう、本当に本当に、しみじみと五臓六腑に染みわたる味なのだ。清らかで、清々しい。しかも、鍋の中で白と緑が鮮やかに映え、目にも麗しい爽やかな景色が広がる。まさに、五月の薫風を味わっているような気分。』
「糸暦」
小川 糸 (著)
発行: 白泉社
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『 店頭に並ぶ野菜や果物は、どれも驚くほどに見た目や色がそろっています。そんな売り場では、私が育てている「在来種」と呼ばれる野菜たちは、少し肩身の狭い思いをすることになるかもしれません。一般的な野菜とちがい、色や形、大きさもまちまちだからです。しかし、それが自然な野菜の姿なのではないかとも思います。
(中略)
そんな多様性豊かな在来種の野菜たちと出合って40年。雲仙の山肌を切り拓いた畑で、年間50種類もの在来種の野菜たちを、農薬や化学肥料を使わない有機農業で育てています。毎年、種から育て、花を咲かせて、また種を採る。そうやってくり返しくり返し、大切に育ててきました。』
「種をあやす」
岩﨑 政利 (著/文)
発行: 亜紀書房
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『 朝は教会のように静かだ。私は開館の三〇分ぐらい前に持ち場につく。遠慮会釈なく私に話しかけてくるような人は誰もいない。レンブラントと私だけ、ボッティチェッリと私だけ、血肉を備えているように見えるあの生き生きとした幽霊と私だけ。
(中略)
この展示エリアを歩きまわっていると、遠く離れた見知らぬ土地に来た旅行者のような気分になる。言葉もわからず、脇を小突いてくれる同伴者もおらず、一人で異国の都市を歩いたことのある人ならわかるだろうが、そんな経験には驚くほどの没入感がある。その土地に溶け込むのである。』
「メトロポリタン美術館と警備員の私」
パトリック・ブリングリー (著/文)
山田美明 (翻訳)
発行:晶文社
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